カーンアカデミーが教育システムを変える(2)、長期記憶とマイペース学習


長期記憶

カーンアカデミーが教育システムを変える(2)、長期記憶とマイペース学習

長期記憶はもっと安定していて、長持ちします。短期記憶が長期記憶になる過程を記憶の「固定」と呼びます。脳科学者は細胞レベルで固定がどのように起きるのかをまだ突き止めていませんが、その機能的な特性はよく知られています。カンデルはこう述べています。

「記憶を持続させるには、入力情報をしっかり、確実に処理しなければならない。情報によく注意を払い、それをすでに記憶している知識と有意に、体系的に関連付けることで、これは実現される」

つまり、即知の情報と結びつけたほうが、ものごとは理解、記憶し易いということです。意味のない音節の連なりよりも、同じ長さの詩のほうが覚えやすいのはこのためです。詩のそれぞれの言葉は、私達の心のなかのイメージや、その前にある言葉と関連付けられます。詩には言葉のリズムや接続に規則性があり、私達はたとえ無意識であってもそれを理解することができます。

個々の情報を記憶するのではなく、ものごとを全体で捉えやすくするための論理パターンを扱っているのです。知識を長い間持続させるには、脳をこのように働かせるのが最も良いと思われます。そうであれば、最も効果的な教え方は、教科の中の各テーマの「流れ」とか関連性、あるいは教科を超えた関連性みたいなものを強調することだと言えそうです。

しかし残念ながら、標準的な教室モデルがやっているのは、その正反対です。愚の骨頂は、教科を無理やり分けていることです。私達は教科の内容を勝手にそぎ落としています。あるいは隔離しています。確率の基礎がわかれば遺伝にも応用がきくというのに、遺伝は生物で教わり、確率は数学で教わります。

物理は代数や微積分の応用だというのに、両者は別個の授業で扱われます。化学と物理もしかり。これらは同じ現象を違うレベルで学ぶことが多いのに・・・

こうした分離は理解の妨げとなり、宇宙の本来の姿を見誤らせます。接触力(物理で言う)が実は電子の反発力(化学で言う)の一つの表現であると知るのは、生徒に役立たないことでしょうか? 飛び込みで腹打ちするときのスピードがどのくらいか、地球の倍の質量の惑星では体重がどれくらいになるか、そんなことを知るのにも使えたら、代数はもう少し面白くならないでしょうか?

他にも、コンピューターサイエンスのようにニュートラルな科目と、進化のように一定の価値観がつきまとう科目を一緒に勉強したら、興味深い反応が起きるかもしれません。生態系の中の変異と競争をシミュレーションするためのコンピュータープログラムを書いたらどんなことが学べるでしょう?

可能性は無限にあります。しかし、「分断」を旨とする現行システムのもとでは、それも実現不可能です。すでに細分化された授業の中で、学習内容はさらに切り刻まれ、相互の繋がりは無視されます。

れを勉強することが将来何の役に立つのか、ということがわからないから想像力も生まれないし、授業はいつしか受動的になりつまらない、わからない、嫌いな科目の一つとなっていく。関連性、社会のどの部分で応用が効くのか、この科目を知ることはこの事実と繋がっているとか、そのような想像力を与えられれば、もしかしたらある生徒は自分で自発的にいろいろと調べ始めるかもしれない。この姿勢が大事!

新しい物事を学んでいく時、その過程で必ずこの知識はあの知識とリンクしてくるなぁ・・・この瞬間が時に在る閃きとなる。ビジネスチャンスかもしれないし、何か社会問題を解決する糸口になる可能性のある何かかもしれない。完全習得学習をしていれば、その知識は長期記憶となってその個人の能力となり、体系的に関連付ける知識の裾野を広げることになるのだと思います。

マイペース学習

まず学習プロセスのあらゆる段階で、教育に対する能動的な姿勢を保つよう生徒たちを後押ししなければなりません。彼らは物事を取り込むだけでなく、解き明かす必要があります。こうした癖をつけるのは非常に大切です。というのも実社会では、どんな公式を覚えればよいか、誰も教えてくれないからです。

成功するか否かは、新しい創造的な方法で問題を解決できるかどうかにかかっています。それに考えてみれば、子供達に能動的になれというのは、ありのままに振る舞いなさいと言うのと同じこと。子供達は何かをしたがるものです。遊びや作業に忙しいのが、人と話をしたいのが当たり前。一時間静かに座って聞き耳を立てている方がむしろ不自然です。

生徒たちは生まれつき受け身なのではありません。必要悪として、そうなれと教え込まれるのです。すると受動的な態度が習慣化します。生徒はおそらく従順になりますが、集中力や参加意識は弱まります。昔ながらのぎゅうぎゅう詰めの教室で秩序を維持するにはそれも有効なのでしょうが、だからといって、それが最善の学習法だということにはなりません。

能動的な学習、当事者意識の高い学習のためには、いつどこで学ぶかを生徒一人一人に自由に決めさせることも必要です。インターネットやPCの利点はここにあります。裏のポーチで午前3時に2時方程式を勉強したければそれも良し、珈琲店やサッカーグラウンドのほうが能率が上がるのであれば、どうぞご自由に。

教室にいるとき以外は賢くて注意深そうに見える、そういう子供に出会ったことが誰しもあるのではないでしょうか? 朝型の人もいれば夜型の人もいるのは当然でしょう。インターネットにより教育のポータビリティーが飛躍的に高まったお陰で、生徒は自分自身のリズムに合わせて、一番効率的なやり方で学ぶことが出来ます。

ここから必然的に出てくるのが、マイペース学習という考え方です。一人一人の生徒に「いつ」「どこで」だけでなく、学習の「速度」も管理させるのです。同じ生徒でも日によって、あるいは科目によって違うスピードで学びます。しかし従来の教室では、速度は一つだけ、それを決めるのは先生一人だけ。

このように融通がきかないため、飲み込みの早い生徒はすぐに退屈し、集中力を失います。それどころか、退屈さに耐えかねて教室内の規律を乱すことさえあります。もっと時間が必要な生徒はやはり置いていかれます。速度が完璧に合うのは、分布曲線の真ん中の「仮説上の」生徒だけ。実態とは大きく乖離しています。

一方、マイペース学習の場合は自分で速度を決められるので、フィットしないはずがありません。学習内容が簡単にわかったら、さっさと先へ進んで退屈とおさらばすることが出来ます。内容が難しいと思うときは、一時停止ボタンを押してもよいし、ちょっと後戻りして問題をもっと問いても良い。恥をかくこともなければ、クラスの皆に迷惑をかけることもありません。

このように、ポータビリティー(いつどこで学ぶかの自由がきく)とマイペース(自分に合った速さで取り組める)は、能動的・自発的な学習になくてはならないものです。しかし、生徒が本当の意味で自分の教育に当事者意識を持つためには、もう一つ必要な条件があります。

それは前にやった学習内容にいつでも簡単にアクセスできることです。この点でインターネット学習は、教科書をはじめとする伝統的教材よりも遥かにメリットがあります。レッスン内容は消失しまっせん。「黒板」が消されてしまうこともなければ、「教科書」が紛失することもありません。

必要とするものが目の前のPCにあることがわかっているから復習する気も起きますし、ソフトが学習履歴を記録していてくれればすぐに復習にとりかかれます。まるで去年お世話になった生物の先生から、光合成について説明してみなさいと廊下で声をかえられるようなものです。

また、インターネットによる学習は、特定の学習内容の復習だけでなく、学習内容どうしの関連性を深くしっかり理解する上でも有効です。インターネット上には、教室の壁とか、授業の終わりを告げるチャイムとか、国や州の決めたカリキュラムとかいった制約がありません。

一つのテーマを一見異なっていそうな各種分野にまたがる様々なレンズを通して、たくさんの角度から検討することができます。このような学習は、より深い知識だけでなく、素直に不思議がる気持ち、わくわくした気持ちを育みます。それこそが教育の最も高い目標であるはずです。そうした気持ちを育めないことが、現行システムの一番の悲劇なのです。

分自身で学んでいく学習スタイルを規律することは自立することに繋がる。誰か他のもの、他人のせいにはしなくなる。今ある自分はすべて自分の責任。ここからどこへ行く可能性があるのか、これもその人個人の可能性次第。頭は鍛えれば鍛えるほど自分に有利に働いてくれる。

マイペース学習。他人に迷惑かけることもなく自分のペースで自分のしたいように勉強していく。自分の人生を切り開いていく能力はこのような姿勢から養われていく。いつでもどこでも、という安心感は、わからないことによる不安感やストレスを生徒から開放してくれる。

そして私が一番大事だと思うこと、生涯学習の姿勢を身につけられるということ。学校を卒業してからも知識習得に励む。自己学習を続け、新しい知識を学んでいく。マイペースでやればいいんだ、という安心感と、いつでもどこでもわからなかったら助けてくれる場所や、人に出会えるということも安心感に繋がる。

自分は進化し続けるぞ、という気概はその個人にワクワク感を与え、ポジティブに、積極的に自分の人生を生きていくモチベーションにもなる。何かがわかる、理解できる、そして新たに発見していくことは自信を育てていく上で必要な習慣なんだと思う次第である。

マイペース学習

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