ジョージ・ブッシュ大統領のイラク政策とアメリカのジレンマ

The Responsibility Rests With Me

噂されていたイラクへの新たな派遣が昨日のジョージ・ブッシュ大統領の演説から発表された。約20分あまりの演説で今回はっきりと間違いを認める形となり、責任は自分にあると語る。

Where mistakes have been made, the responsibility rests with me.

そしてイラク政策を変える必要があることを国民に説明し、なぜ新たに2万人もの増派が必要なのかを説いていた。

米メディアなどによると、現在13万2000人が展開するイラク駐留米軍に5個戦闘旅団、約2万人を増派して宗派間抗争を押さえ込み、今年11月までに全18県の治安権限をイラク政府に完全移管する目標を盛り込む。

今回の新政策は、イラク治安部隊をテロ対策の前面に立ててきた従来の政策を転換し、米軍の力でまずイラクの治安を回復することを目指すものだ。ただ、一般市民に紛れ込んだ武装勢力を、外国の正規軍でどこまで制圧できるか、疑問の声も上がっている。(読売新聞)

このブッシュ大統領の演説の後、民主党からすぐに兵力派遣反対、ブッシュ大統領の新たな政策反対の声明が出されその中にはヒラリー・クリントンのものも含まれていた。前の11月の中間選挙で民主党に議会のコントロールを奪われたかたちになり、今やブッシュ大統領の政策を議会はなんとか却下しようと躍起になっている。

多分、ブッシュ大統領のイラク政策の見直しの提案も史上初の女性合衆国下院議長ナンシー・ペロシ議員が全面的に反対姿勢を示し、民主党はイラクからの撤退をアピールする格好のチャンスとしてブッシュ大統領を攻撃するであろう。

増派の部隊はどこに配置されるべきか?

CNN はブッシュ大統領演説終わった後の解説の中で興味を引く2、3のポイントを説明してくれた。まず、増派の部隊はどこに配置されるべきか?

バグダッドが中心になるらしい。 スンニ派勢力が強い部分とシーア派勢力が強い部分の間に入ってうまくバランスを取ることができるのか? ここが民主党が気に入らない部分でイラク国内の治安の問題などアメリカ人の兵力を使わないでイラク人が本来やるべきである、という主張。

ブッシュ大統領の政策も9ヵ月後にはイラクの警察部隊が治安維持を遂行できるようにしてもらうつもりでいるがその委譲のタイミングの難しさがジレンマとなっている。今イラク国民に完全に委譲するのか?

実際に治安維持の回復にイラク国民が積極的に行えるよう、混乱のまだまだ続いている状態にもかかわらず任せてしまってイラクから撤退を始めてもいいのだろうか?

それとももうすこし現状の状態が落ち着くまで、イラクの治安維持組織が効率的に活動がイラク人自らによって行えるようになるまで、アメリカはイラクに留まり、その活動をサポートする必要があるのかどうか?

イランの存在

ここで第2のポイントが浮かび上がってくる。仮にアメリカがイラクでの政策失敗を認めて撤退したとしよう。いや、中途半端な形での撤退でもいい。そのような状況になった時、誰が一番得をするだろう?

イランである。イランにとってはイラク国内の混乱が長引けば長引くほどいいと思っているに違いない。今やイラン・イラク戦争で最大の邪魔者だったフセインは居なくなり、イランと同じ宗派のイラク内シーア派が勢力を拡大してくれるのを期待している。

混乱が長引けばアメリカはやがて行き詰まり、結局はイラクから撤退という形になるはずだ。そのチャンスがくるまでイラク国内はあれたほうがいい。このように考えているにちがいない。

仮にイラク国内でシーア派 が力をつけたとしよう。そのとき、浮かび上がってくるポイントが第3の指摘である。イラク国内にある油田地帯はどこに分布しているか? シーア派が多数のイラク南部とクルド人の多くが居るイラク北部である。

クルド人自治区

イラク北部の都市キルクークには巨大な油田があるために、サッダーム・フセイン政権の下、トルコ人、クルド人が追い出された経緯を持つ。 2003 年 4 月の第 2 週頃、アメリカ軍のキルクークへの進攻に伴いイラク人は町を離れ、周辺都市からクルド人が来訪、略奪を繰り返すようになった。トルコは自国のクルド人が独立国家を設立しようとする可能性について懸念を抱いており、キルクークがクルド人自治区となること(ひいては原油関連事業の資金がクルド人の手に渡ること)に反対していた。アメリカ政府もトルコ政府のこの方針に賛成し、クルド人自治区はほとんど現状維持という形となった。

ここはシーア派もクルド人も絶対に手放さない。すると中東のバランスはどうなるのだろう? クルド人が勢力を拡大すればその上に位置するトルコはいいように思うはずかない。

せっかくイスラム系の国から初の EU 加盟を果たす国がトルコであると頑張ってきたのに自分の足根っこの部分では中東のイスラム圏から抜け出せない状態に陥る可能性がある。

トルコは国内に多くのクルド人を抱えており、クルド人勢力のテロと分離独立の動きを警戒している。イラクからのクルド人勢力の越境テロもあり、アメリカと イラクに対して対応を求めているが、治安の悪化を恐れて積極的な対応はされていない。

こうしたなか、トルコは国境地帯に軍を展開させたが、逆に国境地帯でクルド労働者党( PKK )がトルコへの攻撃を激化させた。 2007 年 6 月には PKK が拠点とするイラク北部のクルド人自治区に対してトルコ軍が大規模な越境攻撃を実施したとの報道が流れたが、トルコ側は限定的な作戦だったとして否定した。

イスラエルの懸念

もっとやっかいなのはシーア派だ。ここをイランが押さえるとなると一番危機感を抱いているのはイスラエルであろう。こうなると絶対に戦争がまた中東で始まる。

そしてイスラエルを巻き込むということはすなわちアメリカとイギリスは全面的にバックアップするということの表明であり、イスラエルを攻撃するイランは他のアラブ系、とくにパレスチナを巻き込み、そしてアルカーイダを巻き込んでゆくようになるのだ。このシークエンスが一番恐い。多くのアメリカ人はこの辺をわかっているのであろうか?

今や次の選挙のために共和党内からも多くの政治家がブッシュ大統領の元を離れ、イラクへの新たな政策反対を表明し始めた。散々馬鹿にされたブッシュ大統領であるが、レームダックとなった今、もしかしたら本当の政治家になったのかもしれないと考えてしまった。

本当の政治家とは?

本当の政治家とは今現時点では多くの国民に対して犠牲を強いる内容の政策であって、多くの国民から反対されようとも、もっと長――いスパンで考察した時には、結果その国民に利益を与える政策を自分の信念を元に貫く姿勢を行動と共に実現できる人であろう。

イラク人によるイラク国内の安全を維持できている様子は今現在想像できない。アメリカ人が早かれ遅かれイラクから撤退し、イラク国内が混乱し続けている様子は容易に想像できる。そこから後のシナリオはまだ見えてこない。民主党も共和党もわからないのだ。

2007 年 1 月、ブッシュ米大統領は「イラクの混乱の原因はすべて私にある」とコメントし、最大で米兵 2 万 2000 人のイラクへの一時増派を明らかにした。兵力増強をブッシュに進言したのはジョン・マケイン上院議員だとされる。 2 月にはイラク駐留米軍の司令官にデービッド・ペトレイアスが就任した。 1 万数千人がバグダッドで治安維持に当たるほか、治安悪化の著しい西部の州にも 7000 人程度が派遣され、ゲリラ掃討に当たる。

また、この戦争と占領によって、米本国の陸軍と海兵隊の人員が不足したことから、数万人規模で増員する。さらにペルシャ湾に空母打撃部隊 2 個部隊を配備するなど、イラクのほか、イランやシリアに対する軍事的威嚇の度合いを強めている。しかし、過去数度にわたる増派の効果がいずれも薄かったことから今回の増派の効果を疑問視する声もある。

しかしながら夏以降の増派は一定の成果を見せ、 2007 年の米兵死者数は年間では過去最悪の 901 人を記録したが、 9 月以降減少傾向を見せ、 10 月 にの米兵戦死者は 39 人に減少、 11 月には 37 人、 12 月はその数は更に下回り 23 人となった。米軍は依然として状況を楽観していないが、 2004 年 2 月 の 20 人に次ぐ低水準となった。

これには、ペトレイアスの新たな治安維持戦略が挙げられる。ペトレイアス戦略は、前任のジョージ・ケイシー司令官とは異なり、日本の陸上自衛隊がサマーワで行っていた人道復興活動を強化し、前述のアルカーイダに反発するスンニ派部族や同派部族を代表する覚醒評議会との連携強化につながった、こうした硬軟の使い分けにより、イラク聖戦アル・カーイダ機構に大攻勢をかけ、ペトレイアス司令官によると、聖戦機構の 6 ~ 7 割に打撃を与えたとしている。

2007 年 10 月 には軍内部で対聖戦機構勝利宣言が検討されたが、その際には慎重論が大勢を占めた。また、フセイン拘束を指揮したことでも知られるオディエルノ副司令は 2008 年 8 月 までには米軍の駐留規模を 2 、 3 万人削減できるとの見通しを示している。 2008 年 4 月 8 日 にはペトレイアス司令官が上院で証言を行い、その際に増派前の水準への兵力削減が発表させると一方、武装勢力との攻防が依然一進一退の状況であることから、それ以上の追加撤退については否定した。

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