インドのイスラム教徒
インドの歴代大統領のうち2人がイスラム教徒で、退職のA・P・J・アブドゥル・カラム大統領はその一人だ。アブドゥル・カラムはインドの核ミサイル開発計画の父でもある。
インドの最高裁判所にはイスラム教徒の女性裁判官がいる。サウジアラビアでは女性が車を運転することすら許されないのに。
インドの州知事にも、女性を含めたイスラム教徒が何人かいる。インドで最も裕福な人物でフォーブスの世界長者番付の上位を占めているイスラム教徒といえば、インドの最重要IT企業ウィプロのアジム・プレミジ会長だ。
2001年のアメリカのアフガニスタン侵攻の直後に私がインドへ行ったとき、有名女優で国会議員でもあるイスラム教徒ジャバナ・アズミと、ニューデリー最大のモスクの宗教指導者との討論を、インドのテレビ局が放映していた。宗教指導者は、インド人イスラム教徒に、アフガニスタンへ行き、アメリカと戦う聖戦に参加するよう呼びかけた。
アズミは生中継の討論で宗教指導者を激しく非難し消え失せろという趣旨のことをいった。聖戦がやりたければカンダハルに自分が行けばいい。インドのイスラム教徒を焚きつけるのはやめなさい。そんなことをいってもアズミが無事でいられたのはなぜか? 答えは簡単。イスラム教徒の女性であっても、意見を率直にいう力をあたえ、宗教指導者の親玉にも手出しができないような環境にいるからだ。(トーマス・フリードマン著「フラット化する世界」参照)
民主主義が完璧かどうかなど、僕にはわからない。しかし、イスラム教徒の女性であっても意見を率直に言える環境というのは開かれた社会であり、英語で言うところの Openness は社会の風通しをよくしてくれる。
社会の至るポジションで活躍するイスラム教徒の存在を知ることは、人々に希望を抱かせる。自分もあのようなひとたちに近づきたいという気持ちは自分を律することに繋がるだろうし、目標とする方角は違ってもポジティブなエネルギーを生むことは確かだと思う。
アラブ諸国政権の問題点
原因の一つは、アラブ・イスラム教国の政府が、過激派に対抗して思想面で論陣を張るのを避けていることだろう。アラブ諸国の政府は、イスラム・レーニン主義者を逮捕して投獄することには熱心だが、現代的・進歩的なイスラム教解釈によってイスラム・レーニン主義者を迎撃するのにはひどく消極的だ。なぜなら、アラブ・イスラム世界の指導者は、ほとんどといっていいくらい、正統な国家指導者ではないからだ。
軍事力で権力の座に就いたために、穏健で進歩的なイスラム教徒として認められておらず、正統的なイスラム政権ではないと強硬なイスラム宗教指導者から非難されたらひとたまりもないという認識がある。だから、アラブ諸国の政権は、過激派に本気で対処せず、投獄するか、金をあたえて外国へ追い払う。そのため、たちの悪い宗教的・政治的空白が生じる。(トーマス・フリードマン著「フラット化する世界」参照)
既得権益、というものはどこの世界でもどこの国でも存在するらしい。権力の座に固執するものは自分が失脚するという想像が恐ろしい。それがどんどん独裁制的体質を生み出し、結局は身内から足をすくわれるというケースになる。怪しいものは自分から遠ざける。これでは社会が動かない。
若いイスラム教徒の心理的葛藤と自尊心喪失
[quote2]
困ったことに、ビン・ラディン一派がアラブ・イスラム教徒から信者を勧誘するのは、きわめて簡単だ。アラブ・イスラム教徒の若者多数が、ことにヨーロッパで、半分だけフラットな世界に住んでいることが、一つの原因ではないだろうか。
この若者たちは、イスラム教こそ唯一の神の完全な言葉を伝えるもので、予言者ムハンマドは最後にして、完璧なる伝道者である、と教えられて育つ。これは批判ではない。イスラム教の信者としての自己認識の根底がそこにあると指摘しているだけだ。
しかし、フラットな世界で、こうした若者、とくにヨーロッパに住む若者が、世界におけるアラブ・イスラム世界を見ると、さまざまな面で地球上のほかの地域より遅れているのが目に留まる。他の文明社会のようには繁栄しておらず、民主的でもない。どうしてそうなのか? 若いアラブ・イスラム教徒は自問せざるをえない。われわれの宗教は、信仰、政治、経済まですべてを網羅する優れた教えであるはずなのに、なぜ異教徒のほうがずっといい暮らしをしているのか?
多くのアラブ・イスラム教徒の若者の認知的協和 – 矛盾した考えが同時に存在することが原因の心理的葛藤 – の源は、そこにある。この心理的葛藤と自尊心喪失が怒りに火をつけて、一部の若者が暴力的な組織に加わり、激しく世界に襲いかかる。
普通の人々が、アルカイダのような過激組織を消極的に支持するのも、こういった矛盾する感情が原因だろう。それに、世界のフラット化によって、アラブ・イスラム地域が他の地域に比べて遅れていることが、とうてい無視できないくらいはっきりするので、この心理的葛藤は一段と強まる。この矛盾を黙殺するのは不可能になったので、アラブ・イスラム世界の知識層は、非常なくらい率直に後進性を指摘して、解決策を要求し始めた。(トーマス・フリードマン著「フラット化する世界」参照)
破壊しようとするのか、それとも異なった環境へとアジャストするための努力の一歩を踏み出すのか? イスラム教、イコールテロリストという雰囲気が醸成されようとしている社会の中、イスラム教を信じても充分に豊かになれるんだ、と実感が持てるようにするためにはどうしたらいいのだろうか?( バラク・オバマが立ち向かうことのなる今のアメリカ社会とは? )
世界の一員になろうとする試み
前向きなイマジネーションを現実に変えられるような環境を若者に与える。不満を持っている若者に、裁判官を山羊一頭で買収しなくても法廷できちんと不満を裁いてもらえるような環境を与える。起業家精神に富む発想を推し進めて、金持ちになり、創造的な人間になり、国民の尊敬を集める人間になれるような環境を与える。出自などには関係なく、苦情や思想を新聞で発表できる環境を与える。誰でも大統領になれるような環境を与える。そうしたらどうなるか?
世界を粉みじんにしたくはならないだろう。世界の一員になろうとするはずだ。(トーマス・フリードマン著「フラット化する世界」)
キーはやっぱりどこの世界、どこの国でも若者なんだろうなぁ。それぐらい若者の信じる力というか、純真な心もそうだけど、人々を駆り立てる行動を起こせる希望なのかもしれない。
フラット化する世界の影響はイスラム教だけに存在するのではない。アメリカにも日本の社会にも存在しているのだ。
イマジネーションの効用
世界をフラットにするやり方は二つある。一つはイマジネーションを使って、他人を同じレベルまで引き上げるというものだ。もう一つは、イマジネーションを使って、他人を同じレベルまで引きずり落とすというものだ。
デビット・ニールマンは、楽観的なイマジネーションと、フラットな世界の簡単に利用できるテクノロジーを使って人々を引き上げた。想像もしていなかったような新航空会社を立ち上げて成功させ、利益の一部を従業員の災害救援基金にふりむけた。
ウサマ・ビン・ラディンとその弟子たちは、歪んだイマジネーションと、同じフラットな世界のツールを使い、奇襲攻撃を仕掛けて、アメリカの力の象徴であるツインタワーを自分達のレベルに引き落とした。さらに恐ろしいのは、宗教の名を借りて、資金をつのり、この大惨事をもたらしたことだ。
「グローバリゼーションという原始の沼から、二種類の遺伝子が生まれた」インフォシスのナンダン・ニレカニ CEO はいう – 一つはアルカイーダであり、もう一つはインフォシスやジェットブルーだ。「だから、われわれは、良い突然変異種を増やし、悪い突然変異種を駆逐する努力をしなければならない」
大賛成だ。この地球が破壊されてしまわないために、心してそういう努力をすることが、最も重要であるかもしれない。(トーマス・フリードマン著「フラット化する世界」参照)
揚げ足取り社会、日本
もう一度言おう。フラット化する世界の影響はイスラム教だけに存在するのではない。アメリカにも日本の社会にも存在しているのだ。他人を同じレベルまで引きずり落とすという人間がなんと日本の社会には多いことか! 他人を同じレベルまで引き上げる、という行為を恐れる人は自分自身に対して努力をしていない人だ!
そういう知的に怠惰な人はどんどん淘汰されていってしまう。そこで八つ当たり的に自分の不満を他人に社会に対して吐き出しても、そこからは建設的なものは何も生まれない。こういう社会は不健康だし、多くの日本人がきっと自分とは関係ない、と思っていることであろう。
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